蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

人類学講義覚書

トラジャの葬送儀礼

9月23日の「人類学B」の講義では、自作の資料映像『死生観の人類学』に収録されている、バリ島の葬送儀礼を紹介した。これを撮影したのは1998年である。

その後、1996年にNHKで放映された『死ぬために生きる人々 インドネシア・トラジャ』が9月19日に再放送されたと聞いた。現在ネット上で視聴できるかどうかは不明だが、私じしんは23年前に放映された番組をVHSに録画していたのを思い出し、DVDにコピーして保存していたのを発見した。
www.nhk.or.jp
こちらはスラウェシだが、ヒンドゥー由来の火葬が伝わる以前から行われていたインドネシアにおける葬送儀礼祝祭性を描いている。

『性・死・快楽の起源』

二十年前に出版して絶版になったままの『性・死・快楽の起源』は、我ながら問題の多い著作ではあり、そのままの形で著作集にアップするのは躊躇われるが、再検討に値するテーマは切り出して加筆修正し、学術的な議論の俎上に載せていきたいということで検討中である。当座、講義の資料用に、遺伝子の分子生物学と老化について論じた「性と死のサイクル」を切り出して(すこし修正したものを)ブログ上にアップしたが、これも分割してさらに加筆修正する必要がある。

人類遺伝学

https://www.cell.com/cms/attachment/2086117941/2074091020/gr1.jpg
進化の基盤—遺伝子・脳・コンピュータ—[*1]

人間のDNAの全塩基配列を決定するヒトゲノム計画は西暦2003年に完了した。DNAの二重らせん構造の発見から50年後のことであった。

それからわずか十余年で、約二万円で個々人のDNA(の個体差のある部分)のすべてが解読できるサービスが利用できる時代になった。このことは「個人向け遺伝子解析」や「遺伝情報のデジタル化」に書いた。

個々人のDNAの塩基配列が解読できることで、何がわかるのだろうか。

第一に、アフリカで誕生した人類が地球上の各地に移住した経路(ルート)を、分子進化のレベルで明らかにすることができる。個々人にとっては、自分じしんの遺伝子の由来(ルーツ)を知ることができる。(→「遺伝子からみた人類の系統関係」「遺伝子からみた日本列島民の系統」)

第二に、個々人が、自分の体質や病気へのかかりやすさを知ることができる。遺伝子の変異が中枢神経系の機能を左右する場合、認知能力やパーソナリティ、あるいは、精神・神経疾患といった、より精神的・心理的な特性に、どこまで遺伝子がかかわっているのか、という問題にもつながってくる。これは「DNA性格診断」や「遺伝子婚活」のような文化を派生しつつある。

人類学の講義では、個人向け遺伝子解析という近未来的な技術を紹介しつつ、それをとっかかりにして、現生人類の起源と拡散、認知機能とパーソナリティの小進化、そして性と生殖・親族と婚姻と、話を進めていく予定である。



2019/09/30 JST 作成
2019/10/14 JST 最終更新
蛭川立