この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、個人の感想も含まれており、その正確性は保証されていません[*1]。
ぐったりと疲れてしまい、もう何もできない。睡魔が襲ってきて、たまらずに眠ってしまう。そして何時間も幻覚をともなう意識喪失状態に陥ったとしても、そのような「症状」が、適切な時間に適切な状況で起これば、病気とはみなされない。そのような生理現象が、社会的に共有されているからである。
しかし、この疲労や眠気が、日中に急に襲ってきたり、それが頻繁に続いたりすれば、それは過眠症という病気とみなされる。端的に、それでは社会生活に支障を来すからである。
過眠症の診断と治療
私事ではあるが、過眠症は今に始まったことではなく、いわば体質的な持病ではある。しかし一昨年あたりからこじらせてしまい、日々の仕事もままならなくなってしまった。もはや、これは体質だから、ではすまされないと、集中的に診断と検査を行った。いくつかの病気が見つかり、その後、うまく治療できたものと、治療できていないものがある。
日中に眠気に襲われるわりには、夜になると目が冴えてきてしまうこともしばしばである。寝つきが悪く、目覚めが悪く、結果的に睡眠のリズムが後ろにずれていってしまう。これは、睡眠覚醒リズム障害のうち、睡眠相後退症候群というものであるが、朝、決まった時間に起きて高照度光療法を行うことで、目覚まし時計の助けなしで、毎朝目覚めることができるようになった。簡単にいえば、夜型の生活習慣を直したということである。それでも昼間に強い眠気がやってくる症状は完治していないが、これは中枢神経刺激薬(精神刺激薬)で対症療法的に抑えることができるようになった。(→詳細はこちら)
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)によって、睡眠時無呼吸症候群が発見されたが、まずは食事制限によって体脂肪を減らしてみたところ、喉のたるみがなくなり、これは治癒した。(ついでに高脂血症も治った。)周期性四肢運動障害らしきものも見つかり、それを裏付けるように血液検査で鉄分の不足も見つかったが、鉄分を貯蔵するタンパク質であるフェリチンの値は正常であり、症状も軽いことから、とりあえずは経過を観察している。(→詳細はこちら)
反復睡眠潜時検査(MSLT)の結果は、特発性過眠症であった。ただし「特発性過眠症」という、はっきりした病気があるわけではなく、ナルコレプシーに似ているが、ナルコレプシーではない、原因不明の過眠症の総称であり、治療方法も見つかっていない。ただし、眠気をおさえる薬による対症療法は有効である。ナルコレプシーと特発性過眠症の眠気にたいしては、中枢神経刺激薬(精神刺激薬)が用いられる。
ドーパミン再取り込み阻害剤であるメチルフェニデートはよく効く薬だが、やや効き目が強すぎるきらいがある。商品名はリタリンで、ナルコレプシーに対してしか処方されない。徐放剤であるコンサータは、ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬として開発された。徐放剤なので、効き目が穏やかに持続する。ADHDは過眠症を伴うことがあるが、コンサータはそうした眠気にもよく効く。
同じような作用機序ではあるが、モディオダール(モダフィニル)やベタナミン(ペモリン)といった、作用が穏やかで副作用の少ない薬が開発されてきている。現在、これらの薬を比較しながら試しているが、一長一短である。なお、もっとも一般的な中枢神経刺激薬はカフェインであり、これを日常的に眠気覚ましとして使っている人は多い。しかし個人的には動悸や悪心などの副作用が強く、体質に合っていないようである。
過眠症の背後に別の疾患がある可能性もある。ADHDや、うつ病、または双極性障害のうつ状態という可能性も指摘されている。その正体は、心の病というよりは、神経系の病気だと考えられているが、にもかかわらず、脳画像や血液検査では客観的な診断ができないのが現状であり、むしろ過剰診断が問題になっている。
あるていど客観的な目安がえられるとされる光トポグラフィー検査では、波形自体は双極性障害に近かったが、脳全体の活動がカットオフ値を大きく上回っていたので、精神病ではなく健常と解釈できる(→詳細はこちら)双極性障害の治療薬である気分安定薬を各種試してみたが、作用も副作用もさっぱり感じられない。操作主義の立場をとる主治医は、薬が効かへんのやったら、もう双極性障害はやめようか、という。
慢性疲労症候群と呼ばれる、原因不明の症候群もあるらしい。微熱が続くことから、ウィルスの感染が関係しているとされるが、体温には異常はない。
非定型うつ病と「冬眠病」仮説
そもそも、うつ病の主たる症状である抑うつ気分というものがあまり感じられない。原因になるようなストレスも思い当たらないのだから、うつ病、あるいは双極性障害に伴ううつ状態だといわれても実感がない。また、うつ病にともなう睡眠障害はふつう不眠(とくに早朝覚醒)であるから、これにも当てはまらない。
しかし、非定型うつ病という、うつ病の亜型では、不眠ではなく過眠という逆の症状が出るという[*3]。
定型うつ病 | 非定型うつ病 | |
---|---|---|
抑うつ | あり | あり |
気分反応性 | 弱い | 強い |
睡眠 | 不眠 | 過眠 |
日内変動 | 朝に不調 | 夜に不調 |
食欲 | 減退 | 増大 |
精神運動制止 | 弱い | 強い(鉛様麻痺) |
拒絶過敏性 | 弱い | 強い |
非定型うつ病には、気分反応性がある。気分反応性とは、好ましい出来事があると気分が良くなるということで、それは当たり前のことである。しかし定型うつ病では気分反応性がなくなる。つまり好ましい出来事があっても抑うつ気分は改善せず、あるいは病前は楽しいと思えていたことが楽しいと思えなくなってしまう。これがうつ病の病気たる所以である。
睡眠にかんしては、私の場合は過眠であるが、ただし朝に具合が悪く、夜になると逆に回復してくる。これが睡眠相の後退を起こしてしまう。
拒絶過敏性というほどのことには思い当たらない。なるほど他者から拒絶されるのは嫌なものではあるが、拒絶に過敏であるとは、たとえば「明日は仕事で忙しい」という理由で誘いを断られた場合に、その言葉を深読みして、自分は嫌われているのだ、嫌がらせを言われているのだ、などと思ってしまい、他人のちょっとした言動に傷つけられやすく、ときに逆上して相手に反撃したりするというものだが、これは若い女性に多く、むしろ境界性パーソナリティ障害との連続性が指摘されている。
非定型うつ病は再発を繰り返すことが多く、その場合は双極性障害の症状の一部とみなせる。秋になるとなぜか悲しくなるという場合、季節性感情障害・冬季性うつ病とも関連づけられる。うつ病を進化生態学的にとらえた場合、ストレスに対する逃避反応であるとみることができるが、非定型うつ病に特有の過眠と過食、とくに炭水化物を多量に摂取し休眠しようとする傾向については、ストレスに対する反応というよりは、秋になり冬眠の準備をする行動パターンとして理解できる[*4]。冬眠は恒温動物である哺乳類と鳥類にみられるが、哺乳類にかぎっても単孔類、有袋類から真獣類まで、多くの系統に分散しており、逆にいえば、すべての哺乳類が冬眠行動を起こす遺伝的なプログラムを持っている可能性を示唆している。季節性のうつ病に対しては、光療法に効果があるという。
私の場合は、過眠や過食は季節とは関係なく出現し、光療法は、時間を決めて行うので、その時間に起きる習慣をつけるのには役立ったようだが、過眠や倦怠感の改善には役立っていない。日照時間とは無関係に冬眠プログラムが誤作動してしまうのだろうか。
【追記】
2023年末から2024年2月にかけて、かなり重い抑うつ状態に陥ってしまった。冬眠病だったのかもしれないが、そのことについては以下の記事に書いた。
hirukawa-notes.hatenablog.jp
睡眠薬
(この部分の記事は、より客観的に加筆修正されて「睡眠薬の科学史と作用機序」として独立しました。)
記述の自己評価 ★★★☆☆
(どちらかというと個人的な体験談で、学術的な正確さを欠いている部分があり、医学的な資料としては参考程度。)
CE2018/07/29 JST 作成
CE2024/03/21 JST 最終更新
蛭川立
*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。
*2:日本睡眠学会認定委員会睡眠障害診断ガイド・ワーキンググループ(編) (2011).『睡眠障害診断ガイド』 文光堂, 51.(孫引き)
*3:「非定型うつ病」とは、定型的ではないうつ病の総称ではない。MAO阻害薬が奏効するなどの特徴によって積極的に定義された亜型である。大前晋 (2010).「非定型うつ病という概念——4種の定義」『精神神経学雑誌』112(1), 3-22.に詳細な総説がある。