SARSの流行による「緊急状態」は、2003年4月2日から5月30日までだった。
講義教材の準備という意味もあり、そのときの資料を発掘、整理している。意外に写真や動画が見つからない。騒動の最中にいるときには写真など撮っている余裕もないし、撮っているところを見つかれば警察沙汰になり、カメラは没収されてしまっただろう。
それ以前に、中国では同じようなことがあった。ふつうに政府の建物を撮影しただけだったのだが、警官が駆けつけてきて、カメラを渡せという。しかし、カメラがなければ写真は撮れなくなってしまう。ならば、フィルムを渡せという。それでも、以前に撮った写真が消えてしまう。けっきょく、カメラの蓋を空けて、その部分のフィルムを露光させることで、事はおさまった。銀塩フィルムの時代の昔話である。
中国国歌 (CCTV-1) | 07-04-2019
中国中央電視台で毎朝6時の放映前に流される国歌『義勇軍行進曲』[*1]
https://www.bilibili.com/video/av31651339/
https://www.bilibili.com/video/av31651339/?p=2
非典型肺炎(SARS)の克服を呼びかける中央電視台広告部制作のの公益広告(2003年)
[日本軍の侵略によって]中華民族は最大の危機に瀕している。起て!進め!というのが『義勇軍行進曲』のメッセージである。公益広告のスローガンは、それを受けて「中国人、継続前進」と人民を鼓舞する。今や立ち向かう敵は日本帝国軍ではなく、SARSコロナウィルスである。
国営放送は、政府は全力で努力している、皆が力を合わせ困難を克服しよう、といった抽象的な情報を流すばかりで、具体的な情報を伝えてくれない。しかし、いま、日本のメディアが暗いニュースばかりを流しているのに比べると、力強い前向きなメッセージも悪くないものだ、とも思う。
あれから17年、湖北省武漢でふたたびSARS関連コロナウイルスの感染が始まった。
https://www.bilibili.com/video/BV1b7411a7fi/?spm_id_from=333.788.videocard.4
広東共産主義青年団の広報(2020年)
2003年の非典[型肺炎](SARS)を克服できたのだから、我々は今回の新型コロナウイルス感染症も克服できるのだ、中国、頑張れ!武漢、頑張れ!という、これも力強いメッセージである。
しかし、2003年に広東省から始まったSARSの感染はなぜ起こったのか、なぜ17年経ってまた同種のウイルスの感染が起こったのか、その原因についての言及がない。
まったく外出しない日々が続く。朝起きてから、黙々と17年前の資料を整理しているうちに、もう夜も遅くなってしまった。今日はビデオ通話もしなかった。そして、いつの間にか脳内には力強い中国語ばかりが流れている。プロパガンダ映像ばかり観ていたから、すっかり「洗脳」されてしまったのだろうか。
そういえば、今日は誰とも話をしていない。誰からも日本語を聞いていないし、誰に対しても日本語を話していない。
CE2020/04/13 JST 作成
CE2020/05/11 JST 最終更新
蛭川立