蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

熱烈慶祝 ”五・一” 国際労働節 STAY LABO ラボで過ごそう

木のぼりをする猿の群れから人間社会が生まれてくるまでには、数十万年—それは地球の歴史のなかでは人間の生涯における一秒以上のものではない―が経過したことは確かである。しかしついに人間の社会が誕生した。

そして猿の群れと人間社会とを分かつきわだった区別としてわれわれが再度そこに見いだすものはなんであろうか? 労働である。


エンゲルス「猿が人間化するにあたっての労働の役割」[*1]
 
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メーデーを熱烈慶祝する毛沢東(中国政府がSARSコロナウイルスの感染が「効果的に封じ込められている」という見解を改めざるをえなくなった2003年4月、四川省成都市、蛭川撮影)詳細は「2003年4月、SARS流行下、四川省・雲南省における調査記録」を参照のこと

今日も研究室で労働。

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「コロナ対策 東京かるたで遊ぼう!」[*2]

食べ物はデリバリーというが、不眠不休で食物を生産し運送しているのは誰か。農民と労働者である。

ワクチンを待ち望んでいるというが、不眠不休でワクチンの研究開発を進めているのは誰か。知識階級である。

京都大学ウイルス研究所に丁稚奉公に出たのは1987年10月のことであった。ラボに泊まり込んで研究をするのが学者の生活というものだ、と院生兄姉に教わった。先輩たちの白衣姿が眩しかった(→「遺伝子解析は京大ウイルス研で学んだ」)。

それから一週間も経たないうちに、同研究所を中退して渡米した利根川進がノーベル生理・医学賞を受賞したと聞いた。一本鎖RNAウイルスのように刻々と変異する病原体に対して、免疫グロブリン遺伝子も自らを変幻自在に組み替えて応答しているというのである。

http://japan-china.cocolog-nifty.com/blog/images/img_0002_1.JPG
一世代前の五十人民元紙幣[*3]右から順に、農民、労働者、知識階級
 
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習近平が導く疫病との戦い:大党の責任」(→動画[*4]
 
家族と別れを告げ24時間体制で総体的な人民の戦いの道に入るのが「緊急状態」なのであり、ウチでかるた遊びをしているような「緊急事態」で、どうして「いのちを守る」ことができよう

「不要不急」というプロパガンダによって労働から疎外されている同胞たちは、空しく引きこもりオンライン乾杯するしかないのだろうか。

「自粛」とは、内面化されたパノプティコンである。こうした巧妙な権力作用により人間が猿に退化させられてしまうのには、数十万年の時間など要しないだろう。

病者を閉じ込めても感染の心配はなく、狂人の場合でも相互に狂暴になる危険はないし、子供の閉じ込めであっても、他人の宿題などをひき写す不正行為も、騒ぎも、おしゃべりも、浪費や放心も起こらない。労働者の場合でも、殴りあいも、盗みも、共同謀議も、仕事の遅れや不完全な仕上がりや偶発事故をまねく不注意も起こらない。密集せる多人数、多種多様な交換の場、互いに依存し共同するさまざまな個人、集団的な効果たる、こうした群衆が解消されて、そのかわりに、区分された個々人の集まり〔という新しい施設〕の効果が生じるわけである。看守の観点に立てば、そうした群衆にかわって、計算調査が可能で取締りやすい多様性が現われ、閉じ込められる者の観点に立てば、隔離され見つめられる孤立性が現われるのだ。

その点から生じるのが〈一望監視装置(パノプティコン)〉の主要な効果である。つまり、権力の自動的な作用を確保する可視性への永続的な自覚状態を、閉じ込められる者にうえつけること。 監視が、よしんばその働きに中断があれ効果の面では永続的であるように、また、権力が完璧になったためその行使の現実性が無用になる傾向が生じるように、また、この建築装置が、権力の行使者とは独立した或る権力関係を創出し維持する機械仕掛になるように、要するに、閉じ込められる者が受込められる者が自らがその維持者たる或る権力的状況のなかに組み込まれるように、そういう措置をとろう、というのである。そうであるためには、囚人が監視者にたえず見張られるだけで充分すぎるか、それだけではまったく不充分か、なのだ。まったく不充分と言うのは、囚人が自分は監視されていると知っているのが肝心だからであり、他方、充分すぎると言ったのは、囚人は現実には監視される必要がないからである。


フーコー『監獄の誕生』[*5](太字は引用者による)

先に「宇宙服のような姿をした職員たちが並び、まるで農薬を散布するように」「まるで近未来SF映画だ」[*6]と書いたが、それは下の動画のような光景だった。緊急状態[*7]下での防毒英雄たちに在宅勤務などありえない。



防毒英雄全面出擊、迎向無毒家園

三密の加持、すなわち調身・調息・調心により、疎外された自己は、自己ほんらいのありかたを取り戻すことができる[*8]

労働とは類的存在としての人間の生(Leben)そのものである[*9]。いまこそ疎外された労働を労働者自身の手に取り戻す時である。

Proletarier aller Länder vereinigt Euch!
全世界无产者、联合起来
万国の労働者よ、団結せよ



記述の自己評価 ★★★☆☆
(半分冗談のような走り書きなので、真面目に再整理したい)
CE2020/05/01 JST 作成
CE2020/05/14 JST 最終更新
蛭川立

*1:エンゲルス, F. 菅原仰訳 (1968). 「猿が人間化するにあたっての労働の役割」『自然の弁証法』(マルクス・エンゲルス全集20), 大月書店, 486.

*2:東京都総務局総合防災部防災管理課 (2020).「『コロナ対策 東京かるた』で遊ぼう!」『東京都防災ホームページ』(2020/05/04 JST 最終閲覧)

*3:2013年、鳥インフルエンザが感染を拡大していた上海でこのお札を使おうとしたら、大学生の小姐に、昔のお札ですね、いまの五十元と取り替えてください、と言われて、取り替えてあげた。今の人民元は全部毛沢東になってしまったが、その前は少数民族と漢族のデザインだった。右から順に、労働者、農民、インテリゲンチャ、そして君たちが未来を担うインテリゲンチャなのですよ、と説明してあげた。
中山竜太 (2006).「お札の変遷」『エコライフ研究所 中国特派員』(2020/05/04 JST 最終閲覧)

*4:習近平が導く疫病との戦い:大党の責任」『CRI online 日本語』(2020/05/14 JST 最終閲覧)

*5:フーコー, M. 田村叔(1977)『監獄の誕生ー監視と処罰』新潮社, 203

監獄の誕生 ― 監視と処罰

監獄の誕生 ― 監視と処罰

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*6:不要哭著道別、現在要微笑

*7:SARSの流行を機に、中華人民共和国は、戦争や内乱などにしか対応できなかった「戒厳」を、自然災害や伝染病の流行にも適用できる「緊急状態」に拡大すべく、憲法を改正した。

*8:「三密」は空海による概念だが、ここでは敢えてサーンキヤ=ヨーガ学派に引きつけて解釈している。

*9:もちろん、「労働する人間=ホモ・ファーベル」に対して、ホイジンガの「遊ぶ人間=ホモ・ルーデンス」についても言及しておく必要がある。「化石人類の物質文化と精神文化」を参照のこと。