蛭川研究室 断片的覚書

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三鷹の「重力波」




国立天文台三鷹の地下に設置された重力波検出器「TAMA300

国立天文台三鷹の敷地内に「重力波」があるわけではない。重力場という「場」が、空間内のどこかに実在するというわけではない。重力場は遍在している。そもそも現代物理学は空間というものが実在するかどうかは問わない。観測されるのは加速度だけであって、それを重力だと操作的に定義するのみである。その定義を公理だとすれば、重力場とは空間そのものだということもできる。

TAMA300はマイケルソン干渉計である。長さ300mの筒の片方に鏡を取りつけ、光が反射して戻ってくる時間をはかる。この時間が、ときに遅くなったり早くなったりする。光の速度が遅くなったり速くなったりするとは考えないことにすると、重力場、あるいは空間そのものが伸び縮みしている、と言い換えることができるが、それが何を意味するのかは、生活感覚によってはうまく理解できない。

年に一度、この地下のトンネルに降りていくことができる。地下の照明をオンにすると、長いトンネルを奥まで真っ直ぐに見わたすことができるが、じつは、奥に行くほど、過去を見ていることになる。なにしろ、筒の中を行き来する光の速度も、筒の外を照らす光の速度も、同じ有限の速度、cなのである。



2019/10/26 JST 作成
2019/10/27 JST 最終更新
蛭川立