蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

発熱による臨死様体験

西暦2017年9月11日、入院から2ヶ月。アマゾンの森で第三次世界大戦勃発かというニュースを聞いてからちょうど16年。

f:id:hirukawalaboratory:20200505143347j:plain
病棟から外出するときには許可が必要だが、感染症の予防についても注意喚起がある

お昼すぎに、ちょうどエアコンの風が当たる場所で、うっかり昼寝をしてしまい、起きると喉が痛く、風邪をひいたような感じがした。夜にかけて急に熱が上がった。

f:id:hirukawalaboratory:20200505105229j:plain
2017年9月11日〜12日の体温。手持ちの体温計を使ったが、看護師さんの体温計と比べた誤差は0.2℃程度

体温は38℃台前半まで上がり、それからゆっくり下がっていった。解熱剤を飲むほどではないし、ましてや命にかかわるほどでもない。

f:id:ininsui:20171120001705p:plain
(写真はイメージです。ラスコーの洞窟壁画のレプリカ)

脳が弱火でコトコトと茹でられている。冷やしても冷やしても火は消えてくれない。

うすぼんやりとした光の中にいる。茹でられて揺れている黒いカーテンの向こうに、もっと明るい光がある。ひんやりとしていて、肌理の細かい、白い粒子が集まっている。
 
弱火でじわじわ火刑にあっているような意識と、ひんやりした水のような意識が同時並行で動いている。

光の中で、生きているものたちが生かされ、生かされあっている。自分も光の中にいる。あの人も、あの人も、光の中にいる。人間だけではなく、たくさんの動物たちがいて、助け合って生きている。

光は吐息とともに近づいてくる。向こうに行ってしまうと帰ってこられないことは、体感でわかる。まだ行きたくはないし、戻らなければいけない。
 
息を吸うと光は遠ざかる。息を吐くとまた近づいてくる。何度も呼吸を繰り返す。
 
意識が途切れた後の記憶はない。

外出禁止令が出て、個室[*1]に隔離された。インフルエンザのような感染を疑われたのだろう。

個室にトイレはあったが、お風呂には行けない。食事は看護師さんが運んできてくれた。毎日会って話ができる人間は、看護師さんだけだった。発熱中の不思議な体験については、話してもあまり聞いてもらえなかった。そもそも看護師さんは決められた仕事をテキパキとこなすのが職務で、むしろ患者の個人的なことは聞かない、という方針だったのだろう。

病院の中はつねに緊急事態である。法的な自由を法的に制限する法律があり、その法律には患者が不服を申し立てる権利があることも書かれている。



CE2017/11/18 JST 作成
CE2020/05/05 JST 最終更新
蛭川立

*1:もともとトイレ付きお風呂なしの個室に入院していた。病棟には「isolation room」という部屋があったが、英語だけ書いてあって、日本語が書いてなかった。敢えて日本語で書くことを憚っていたのだろうか。