蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

【覚書】職場単身隔離研究生活

職場の教職員組合への提言が取り上げられなかったので、再度の提言を行う。理系実験系においては研究の場が生活の場だったものだ。

職員組合から理事会への申し入れのを拝読いたしました。

内容自体は妥当なものだと考えますが、不足している点があります。それは、大学が研究・教育活動を行うことの意義の確認です。

「不要不急の出勤業務を見直し」とあるのは良いのですが、大学の業務のすべてが不要不急ではありません。医療系学部の必要性は言うまでもありませんが、その他の学問が不要不急だということでもありません。

今後の対策については、申し入れにあるように「科学的知見を踏まえる」ことは、きわめて重要なことです。そして、その「科学的知見」を解明するのが大学です。大学が業務を縮小してしまえばその社会的役割は果たせなくなりますし、学生と教職員のみならず、大げさに言えば人類全体の命と生活が守れなくなります。

生活の中にはたくさんのリスクがありますが、新型コロナウイルス感染症が特別に危険かどうかという研究も不十分です。あるいはそれに対する政治的介入の妥当性や経済効果を研究し、政策を提言していくべき大学がその役割を止め、政府やメディアの意向ばかりに従うのだとすれば、本末転倒です。

私はアンケートに対する回答として、とくに教員に関してですが、研究室に泊まり込んで仕事をするという、ひとつの解決策を示しました。それが少数意見であることは理解しておりますし、少数だから可能になることもあります。

在宅勤務に比べて、この方法にはいくつかの利点があります。

1、大学にあって自宅にはない資料や設備を用いて研究が続けられる。

2、自宅よりも大学のほうが情報処理環境が整っている。インターネットへの有線接続が使えるため、動画通信などに適した、高速で安定した接続が可能になる。

3、通勤回数を減らすことで自宅から大学への通勤途中で人が大勢集まる場所を通過する時間を減らすことができる点では、在宅勤務と変わらない。

4、自宅で家族と同居しており、かつ個人研究室で過ごす場合には、完全に一人で隔離されるので、隔離の効率が高い。

寝る場所と食料の確保は難しくありません。入浴や洗濯も、長期でなければ必須ではありません。

もちろん、欠点もあります。

1、守衛さんの夜勤が必要になること。
(これは駿河台研究棟の守衛さんともお話をしました。研究室への宿泊については以前から要望があるが、それは守衛が決めることではない。夜勤が増えるのは問題だが、入構制限をより強め出入り口を減らせば守衛の人数は減らせると聞きました。)

2、トイレを共有することが感染の拡大につながる可能性がある。
(呼吸器系の症状が主とはいえ、排泄物にも少量の病原体は含まれていますが、使用するたびに消毒するということは不可能ではありません。職場における、ひとつのトイレあたりの使用人数と、自宅における家族の人数を天秤にかける必要もあります。)

自宅で家族と同居の場合は、家庭の事情により長短があります。家族とすごせる時間が長くなることが良い点もあれば、家庭で仕事をすることがかえって難しい場合もあります。私は、家族とともに過ごすよりも、職場で職務を全うすることのほうが効率が良いと考えますが、これは個々人の人生観にもよります。

専門家集団として、それを組織する役割を担って頑張りたいということ、他の教職員の方々とも問題意識を共有できることを願います。

明治大学 情報コミュニケーション学部
准教授 蛭川立



CE2020/04/28 JST 作成
蛭川立