蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

京都地裁ワイル証言

証人尋問調書 
昭和54年6月5日第9回公判速記録より
事件番号昭和52年(わ)第1003号 

京都地方裁判所 大麻取締法違反事件

裁判長 川口公隆

弁護人 田村公一

弁護人 丸井英弘

証人 アンドリュー・ワイル

通訳人 片桐 譲

 

弁護人(田村)

 まず、証人の経歴についてお伺いします。

証人

 ハーバード大学で生物学をやりました。それは、1960年から1964年までです。

弁護人(田村)

 ハーバード大学生物学科を卒業したあと、ハーバード大学医学部にも入られましたね。

証人

 はい。

弁護人(田村)

 それは1964年でしょうか。

証人 

 はい。

弁護人 (田村)

 医学博士ですね。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 ハーバード大学医学部の当時の専攻は何だったでしょうか。

証人 

 精神向上剤の研究と麻薬の研究です。

弁護人(田村) 

 1969年にアメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の研究所員だったですね。

証人 

 はい。全米精神衛生研究所です。

弁護人(田村)

 現在、ハーバード大学民族薬理学の研究所員でおられるわけですね。

証人 

 そのとおりです。

弁護人(田村) 

 それと、アリゾナ大学保健科学センター中毒研究科の助教授でもあるわけですね。

証人 

 準教授(ADJUNCT PROFESSOR)です。

弁護人(田村) 

 証人はアメリカではマリワナの研究家として非常に有名な方ですね。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 マリワナに関する論文を書いておられますね。

証人 

 はい。非常にたくさん、マリワナについて書いたことがあります。

弁護人(田村) 

 有名な論文として、1968年12月号の「SCIENCE」という雑誌に発表した論文がありますね。

証人 

 はい。そのとおりです。

弁護人(田村) 

 そのほかに著作物として「ナチュラル・マインド」という本を書いておられますね。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 その本はもちろんアメリカでは出版されていると思うんですが、アメリカのほかにも出版されている国があるでしょうか。

証人 

 はい。イギリス、オランダ、デンマーク、メキシコとラテンアメリカの国々、日本そしてドイツです。

弁護人(田村) 

 アメリカでは「ナチュラル・マインド」という本はどれぐらい売れているのでしょうか。

証人

 10万部です。

弁護人(田村) 

 後出の「SCIENCE」1968年12月号、1234~1242ページを示す。

弁護人(田村) 

 「SCIENCE」に発表した論文というのはそれでしょうか。

証人 

 はい。これです。

弁護人(田村) 

 それは、当時としては非常に画期的な論文だったんじゃないでしょうか。

証人 

 はい。これは非常に注目されました。というのは、マリワナについての人体実験としては最初のものだったからです。

弁護人(田村) 

 相当大きな反響があったと聞いておりますが、どういう人たちから反響があったのでしょうか。

証人 

 医者とか研究家達、それからジャーナリズムのほうです。

弁護人(田村) 

 人体実験といわれましたけれども「SCIENCE」の発表した論文の実験をしたのは、いつからいつまでですか。

証人 

 1968年1月から6月の間です。

弁護人(田村) 

 場所はどこで実験されたのでしょうか。

証人 

 ボストン大学の医学部で行いました。

弁護人(田村) 

 実験の目的はどういうものだったのですか。

証人 

 まず、第一は実験室という環境において、安全に人間を使ってマリワナの研究ができるかどうかを見るためです。

 第二は人体に対するマリワナの基本的な影響はなんだろうかということを見るためです。それから、精神に対してマリワナが基本的にどんな影響力を持つかということを見るためです。

弁護人(田村) 

 実験対象者は何人の人を使ったのでしょうか。

証人 

 マリワナを経験したことのない人を9人とマリワナの常用者を8人使いました。

弁護人(田村) 

 その実験方法は、いわゆる二重盲検法という方法ですね。

証人 

 そうです。

弁護人(田村) 

 使ったマリワナはどんなマリワナでしたか。

証人 

 連邦政府がマリワナを使った人を逮捕したときに押収したものを使いました。

弁護人(田村) 

 シガレットみたいなものですか。

証人 

 それをシガレットの形にして使いました。

弁護人(田村) 

 その被実験者に対して、マリワナをどういうふうにして与えたのでしょうか。

証人 

 非常にコントロールされた仕方で吸わせました。吸わせるときには、どのくらいの時間吸ったらいいかということを細かく指示して吸わせました。

弁護人(田村) 

 二重盲検法ということですが、その吸わせたマリワナはマリワナであるということを、被実験者に告げておったのでしょうか。

証人 

 二重盲検法ですので、もしかしたらマリワナを吸わされているかもしれないという可能性があるということは非実験者たちは知っておりましたが、実際にその時吸わされてぃるものがマリワナかどうかということはわからないようになっていました。

 そして、9人の人達は3種類の吸わされ方をしたわけで、非常にたくさん、もうひとつは少量、もうひとつの場合は全然関係ないという吸わされ方を、それぞれ違う日にされたわけです。

 しかし最後に、いつ、どこで、どういうふうに吸わされたかということは気がつかなかったです。

弁護人(田村) 

 それは9人の未経験者ですね。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 8人の常用者に対しては、どういうふうに吸わせましたか。

証人 

 後の8人は非常に多量のマリワナを1度だけ吸いました。

弁護人(田村) 

 それで、その8人と9人の吸った人たちに対して、作業をさせたり、あるいは精神的肉体的な反応を証人が観察したわけですか。

証人 

 私達は身体的な測定と、心理的なテストと、面接をしました。

弁護人(田村) 

 9人の人、8人の人にマリワナを吸わせた時には、どれぐらいのT・H・Cが含有されていたのでしょうか。

証人 

 多量のときは18ミリグラムです。それは2グラムの中にはいっている分です。

弁護人(田村) 

 それは9人の人に与えた分ですか。

証人 

 これは8人の常用者に与えたのです。何故かと言うと、彼らが2グラムのマリワナを吸った時に、それをどういうふうに感じるかということを見るためでした。

弁護人(田村) 

 先程、9人の経験のない人に3種類与えたと言いましたけれども、もう少し少ないものがあったわけですね。

証人 

 9人の未経験者にも、やはり18ミリグラムを1度だけ与えました。もうひとつの時には4.5ミリグラム、3番目の場合はゼロです。

弁護人(田村) 

 18ミリグラムを吸わせるというのは、非常に大量なわけですね。

証人 

 非常に大量ではなくて平均的な量だと思います。

 それで、経験者の8人に「18ミリグラムはどう思うか」と聞いたら、この8人は「非常にハイになった」と答えました。

弁護人(田村) 

 実験方法の詳しいことは論文に出ているので省略しますが、実験結果はどういう結果が出たのでしょうか。

証人 

 まず第1に、大変なことは全然起こらなかったし、人体実験を安全に実行できることがわかりました。

 第2番目に、身体的な影響というのは比較的少ないということがわかりました。それは、脈拍をわずかながら増加させました。それから、目の白目の部分が赤くなりました。呼吸数は変わりませんでした。血液中の糖分も増えませんでした。瞳孔も広がりませんでした。

 次に、心理的影響ですが、未経験者について言えば、実験室内においては、ほとんど何も感じないと言いました。

 ということは何を示すかというと、マリワナの効果というのはマリワナ自体からくるよりも、何を期待するかというところからくるのが多いということを示すと思います。

 これらの未経験者は、心理的実験では多少点が下がりました。8人の常用者について言えば実験室内でもハイな気分になりました。そして心理的テストでは下がりませんでした。そして、この実験で、マリワナというのは比較的マイルドなものだということがわかりました。

弁護人(田村) 

 この実験結果の結論については「ナチュラル・マインド」という本の中に結論的にも書かれておりますね。

証人 

 はい。それから「SCIENCE」の論文にも書いてあります。

弁護人(田村) 

 「SCIENCE」の論文は非常に大きな反応があったということで「ニューヨーク・タイムズ」の一面にも出たというふうに聞いているのですが、いかがですか。

証人 

 そのとおりです。

弁護人(田村) 

 学会での評価はいかがだったですか。

証人 

 非常に好意的に受け取られました。何故ならば科学的な実験方法が非常にきちんとコントロールされていたからです。

 そして、その当時までは、マリワナについての実験というのは、非常にいい加減な方法でしか行われていなかったのです。

弁護人(田村) 

 それで結論的には、証人の実験によって、マリワナは人体に無害であるという結論が得られたのですか。

証人 

 我々の実験はそれに答えるためにしたのではありません。

 しかし、言えることは、マリワナを吸って、その瞬間というか短時間の間の効果というのは、普通の量を吸った場合には、ほとんど大したことはないということが言えます。

 特にほかのいろいろな薬物と比べてみると、そのことが言えると思います。例えば、タバコとかアルコールに比べて・・・・。

弁護人(田村) 

 この実験によって、証人はマリワナ研究のパイオニアとして非常に有名になったわけですね。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 1972年にニクソンの諮問委員会である「マリワナ及び薬物の乱用に関する全国委員会」が研究報告をしておりますが、証人はこの全国委員会から何か意見を求められたことがありますか。

証人 

 発行されたのが1972年で1970年にその委員会から意見を求められております。

弁護人(田村) 

 場所はどこですか。

証人 

 首府のワシントンです。

弁護人(田村) 

 議会でマリワナの有害性、無害性について証言されたこともあると聞いておりますが、いかがですか。

証人 

 多くの州議会から証言を求められたことがあります。

弁護人(田村) 

 いつ、どういう会議ですか。

証人 

 カリフォルニア、1968年。アイオワ、1970年。マサチューセッツ、1978年です。

弁護人(田村) 

 裁判所で証言されたことがありますか。

証人 

 数多くの州裁判所、連邦裁判所で、マリワナについて証言を求められました。

弁護人(田村) 

 どういうところで、いつ証言されましたか。

証人 

 1969年、アメリカ海軍の軍法会議がワシントンで行われました。

 1970年にテキサス・サンアントニオの連邦裁判所。1978年にオレゴン州の連邦裁判所。1974年と1975年にアリゾナ州の州裁判所。

 それから、1ヶ月前には、アリゾナ州ツーサンの州裁判所であります。

弁護人(田村) 

 今から、マリワナに関するいくつかの誤解についてお聞きしますが、WHOがマリワナの人体に対する影響のついて報告を出したことをご存知ですね。

証人 

 はい。その報告書は読みました。

弁護人(田村) 

 そのWHOの報告書というものは、証人から見た場合に、信用がおけるものでしょうか。

証人 

 私の考えでは、その報告書には多くの古い考えが入っていて、そしてそれはきちんとテストされたものではないものにもとづいていると思います。

弁護人(田村) 

 つまりWHO自身が、自ら実験してその結果を報告したわけではないということですか。

証人 

 そのとおりです。WHOは自分ではやらないで、古くからあるいろいろな資料を集めたのにすぎないのです。

弁護人(田村) 

 では、その出された報告が正しいかどうかということの検証をWHO自身はやってないのですね。

証人 

 そのとおりです。

弁護人(田村) 

 WHOの報告と、ニクソンの諮問委員会の全国委員会の報告とは、どちらが信用がおけるのでしょうか。

証人 

 私はニクソン・レポートのほうがいいと思います。何故ならば、それにはマリワナを使った人の実際の経験、証言が集められているからです。

弁護人(田村) 

 WHO報告の問題になっている個所について、正しいかどうかをお聞きしますが、WHOの報告では「大麻を大量に摂取した場合、通例、急性中毒症状がみられる」と報告されているのですが、これは証人から見て、どうでしょうか。

証人 

 それは可能ではありますが、私自身はほとんどその例を見ておりません。

 そしてほかの種類の薬物、例えばアルコールとかアスピリン当に比べて、はるかにそういうことは起こらないと思います。

 例えばアメリカ合衆国では、何百人という人が、毎年アスピリンの飲みすぎで死んでおりますが、マリワナの飲みすぎで死んだ人はいません。

弁護人(田村) 

 すると証人自身は、大麻を吸って急性中毒症状がみられたということを見たことはないわけですね。

証人 

 私自身が見たのは、ハシッシュを食べて、その結果として非常に眠くなって、長いこと寝続けたという人はおりました。これが私の見た最悪の例です。

 しかし、タバコの形で吸った場合には、中毒症状を見たことはありません。

弁護人(田村) 

 証人自身の観察にもとづかなくても、何か信用性のある研究で急性中毒症状がみられたという例はありますか。

証人 

 マリワナの資料についての問題点というのは、セカンドハンド、人から聞いたということの資料ばかりだということが問題で、特に古い文献資料、1920年代や1930年代のがそうなんです。

 そのころの資料にはマリワナの飲み過ぎというようなことが言われております。しかし、現在の新しいのには、そういうマリワナのとり過ぎによって起こる急性中毒症状がないということです。

 それで、これらの古い資料が、何故そういうふうに中毒症状があるということを言い出したかと言うと、多分、医者達は、ほかの薬物と一緒にとった場合のことを見て、そういうふうに思ったんだと思います。

弁護人(田村) 

 すると、WHOの報告は相当古い資料を使っているので、信用性がないということでしょうか。

証人 

 そうです。

弁護人(田村) 

 急性中毒症状の具体例として「偏執嗜好、錯覚、幻覚、人格喪失」等があげられているのですがすると、こういうものも結局現れてこないということですか。

証人 

 はい。私はそういったことを中毒症状とは思いません。

 人々は、マリワナをすって偏執的になると言うことがあるかもしれませんが、それはその薬のせいではなくて、その環境によるものだと思います。

 例えばお巡りさんがいるところでマリワナを吸ったら、偏執的になると思います。

弁護人(田村) 

 それは何故ですか。

証人

 それは、きっと逮捕されるに違いないという不安を持つからであります。

 そして、多くの人々は、幻覚というのをマリワナを吸って楽しむわけで、それは一種の知覚の遊びといえるでしょう。

弁護人(田村) 

 WHOの報告からちょっと離れますが、急性中毒症状といえるかどうかは別として「錯覚、幻覚、人格喪失」といったものは、マリワナを吸った時に出てくるものですか。

証人 

 そういうこともありうるかもしれませんが、しかしそれはマリワナが吸われる環境とか、それを吸う人によると思います。

 それから、こういった言葉は否定的な意味でも用いられますし、肯定的な意味でも用いられます。例えば、精神医学者だったら「人格喪失」というものを悪い意味で使うでしょう。

 しかし禅のお坊さん達はそれを積極的ないい意味で考えるに違いありません。

弁護人(田村) 

 証人から見て、「錯覚、幻覚、人格喪失」というのは、マリワナにとって起こるということですね。

証人 

 起こることはありえます。

 しかしこのことは覚えておいてほしいのですが実験室で行った場合に、未経験の被実験者達は何も起こらなかったのですから、言えることは吸う人の期待が、結果に対して非常に影響を持つということです。

弁護人(田村) 

 「錯覚、幻覚、人格喪失」というのは、証人から見て、有害であるとおもいますか。有害でないと思いますか。

 

 

 

証人

 また同じことですが、それはその吸う人と、その環境によると思います。

 例えば、芸術家の場合なら、そういう幻覚みたいなものは創作の源泉になると思います。

弁護人(田村) 

 WHOの報告に戻りますが、報告では、「妄想、混乱、精神不安定、興奮」が起こるとなっていますが、これについてはどう思いますか。

証人 

 起こることもありうると言えますが、しかしマリワナの使い方を知っている人には起こらないとも言えます。

 ですからこういうことは可能性があるとは言えますけれども、実際においてはほとんど起こらないといえます。

 そして明らかに、マリワナを吸う多くの人は、不安になったり混乱したいためにすうのではないということが言えます。

 WHOレポートはマリワナの積極的ないい面については何も言っておりません。しかし、人々はそのいいことのためにマリワナを使っております。

弁護人(田村) 

 いいことのためにマリワナを使うと、先程言ったような、「人格喪失、妄想、混乱、精神不安定、興奮」等は起こらないということですか。

証人 

 はい。その場合にはこういった否定的な影響はありません。

弁護人(田村) 

 それともう一つ、人によっては、例えば「人格喪失」という症状は否定的だとは言い切れない訳ですね。

証人 

 それが有害であるとはいえません。

 それどころか、それはいいことだとも言えます。そして、こういった用語の選択ということは大切なことだと思うんです。

 というのは、医学界において、例えば「人格喪失」ということは否定的に言われているわけですが、そういう否定的な言葉を使わずに、同じ状態を、いいというふうにいえる場合もあるわけです。

弁護人(田村) 

 次にニクソンの諮問委員会である「マリワナ及び薬物の乱用に関する全国委員会」の報告についてお聞きします。

 マリワナを「より量の多い中程度の使用をした場合、使用者は情緒の急激な変化、感覚的心像の変化、注意力の鈍麻、思考の断片化、創造の飛躍、直接記憶力の減退、連想の混乱といった思考の形成がある」というふうに出ておりますけれども、これについてはどういうふうに思われますか。

証人

 起こることがあるかもしれないとは言えますが、しかし私達の実験で非常に多量を与えた場合に、こういうことは起こりませんでした。

弁護人(田村) 

 証人以外の人の実験結果が全国委員会に書いてあるわけですが、この報告書に書いてあることは信用性がおけるかどうか、ということについてはいかがでしょうか。

証人 

 私はニクソン報告はWHO報告よりは信用できると思います。しかし、依然としていくつかの間違った情報が入っております。

弁護人(田村) 

 例えばどういうことですか。

証人 

 私はマリワナを中程度にとった場合に、「思考の断片化」が起こるとは思いません。

弁護人(田村) 

 あと、例えば「直接記憶力の減退」ということもあげられているんですが、これはいかがですか。

証人 

 それは可能性があると思い、私達もそれを実験しました。

 しかし、これも積極的にも否定的にも評価できるものです。

 実際マリワナの影響下にある人は、直接的な現在に対して、より注意力を集中させるものです。そして、直接的な現在にもっと注意をしろという哲学がいくつかあります。

 ですから近い過去に対して注意を集中しないと罰せられるようなテストを作り出した場合には、マリワナを吸っている人は確かに成績が悪いでしょう。

 しかし、直接的な現在に対してもっと集中すると、それがほめられるというようなテストを作れば、その場合、マリワナを使っている人は成績がいいでしょう。

 そしてこの分野で専門的でない人にとって、マリワナの実験が含んでいる政治的な意図というものを見抜くことはむずかしいと思うんです。

 今いったふうに、実験のやり方はいろいろなふうに考えることができるからです。

弁護人(田村) 

 「直接記憶力の減退」のついては積極的にも消極的にも評価できるといわれましたが、積極的に評価できるというのはどういうことでしょうか。

証人 

 積極的に評価するという理由は、それは現在起こりつつあることに対して、より注意力が出るということです。

 例えば、美しい森を歩きながら1時間前に食べたものを思い出しているような人は、現在の美しいものを見失っていることになります。

弁護人(田村) 

 あと「注意力の鈍麻」とか「創造の飛躍、連想の混乱」といったような症状はあるのでしょうか。

証人 

 はい。それはありうると思いますが、これもまた、それが使われる状況によると思うんです。

 それで私の行った実験で、8人の常用者に対して行った心理テストでは、彼らは、マリワナを吸った後では成績がよくなったわけです。

 ですから別の言い方をすれば、マリワナは心理的によくなるということも言えると思います。

 別の例を考えれば、全然吸ったことのない人が満員の地下鉄電車でマリワナを吸ったとしたら、確かに非常に混乱を感じるだろうと思うんですが、しかし人々は自分が混乱するためにマリワナを吸うのではありません。

弁護人(田村) 

 「注意力の鈍麻、想像の飛躍、連想の混乱」といった症状は非常にネガチブな評価のように思えるんですけれども、いかがでしょうか。

証人 

 はい。注意力があっちへ行ったりこっちへ行ったり飛ぶということは、積極的にいえば、それは芸術家達にとってはインスピレーションの源になるかもしれません。

 その結果、新しい関係が認識されるかもしれません。

 注意力が鈍麻するということについて、私は賛成できません。

 そして、私が面接した何百人というマリワナ常用者達は、注意力はむしろ鋭くなるといっています。

弁護人(田村) 

 全国委員会の報告書によると「より多量の使用の場合精神異常の発現が起こりうる」というふうになっていますけれども、これについては証人はどう思いますか。

証人

 私はそういう精神異常になることは非常にまれであると思います。

 そして、非常に少数の精神異常のレポートを読みましたけれども、これはマリワナの直接的な影響であるとは思えません。

 我々はみんな、ある程度のストレスにさらされれば、精神異常になる可能性はもっています。

 ある人々は、ほんのちょっとのストレスで精神異常になりえます。

 そういった人にとって、マリワナはそういう原因になることもあるかもしれません。

 しかし、それ以外のことでも、同じように精神異常の原因になることはありえます。

弁護人(田村)

 マリファナは精神異常の原因なんですか。それともそれをきっかけとして出てくるものですか。

証人 

 マリワナは精神異常の原因であるというのは不正確な言い方だと私は思います。

 それは大学へ行くことが精神異常の原因だというのと同じく、不正確な言い方だと思います。

 大学へ行って、家から離れたら最初の一ヶ月目に精神異常になる人はたくさんいます。

弁護人(田村) 

 ニクソンの諮問委員会の全国委員会の報告では、精神異常の具体例として「物体表象の歪み、離人感、感覚的精神的錯覚、幻覚などを含む」となっていますが、これについてはどう思いますか。

証人 

 これらが精神異常の現れであるというのは不正確だと思います。

 そして、多くの人々は、こういうものを楽しむためにマリワナを吸っていて、精神異常とは関係がないのです。

弁護人(田村) 

 全国委員会の報告書では、マリワナを中程度吸うと「精神依存が立証される」というふうに報告しておりますが、これについてはどのように思われますか。

証人 

 「精神依存」と追う言葉がちょっと不明瞭であいまいだとおもいます。

 なぜならば、それは我々が気に入らないことを何回も繰り返してする行動に対して名付けるときに使う言葉だと思います。

 そしてその繰り返す行為が我々がいやだと思わないことだったら、我々はそれを、「精神依存」とは呼ばないのです。

 例えばアメリカや日本にはテレビを見ずには一日も過ごせない人々がたくさんいますが、普通これを「精神依存」と呼ばないのであります。

 しかし、ヘロインとかモルヒネのような薬物においては、身体的な依存性が見られます。アルコールでも身体的依存が見られます。

 しかし、マリワナの場合は、それを長年間常用しても身体的変化というのは見られません。

 ですから、これはテレビを見なければすごせない、という人とどこが違うのでしょう。

弁護人(田村) 

 全国委員会の報告書に、大麻を大量に吸うと「器官の障害、特に肺機能の低下の可能性がある」というような報告があるのですが、これについてはどう思いますか。

証人 

 マリワナを多量に吸った場合には、呼吸器に炎症を起こすことはあると思います。

 しかし、これはマリワナではなくて、ほかの植物でも、そういうふうに煙を吸った場合には起こりうると思います。

 ある人々は、こういった炎症に対して、より感じやすい人々です。

 そして、マリワナを非常にたくさん吸っていた常用者たちの中には、タバコをたくさん吸う人と同じような咳をする人たちがいます。私はそういう人たちを見ました。

 しかし、タバコを吸う人は、一日に、マリワナ常用者よりはもっと多くの煙を吸います。

弁護人(田村) 

 マリワナを煙で吸うから、肺機能に障害が起きるわけですね?

証人 

 はい。そして今、マリワナが喘息に効くということで、そちらのほうの効用の研究が進められています。

 しかし、この目的のためには、煙で吸うよりも食べたほうが効果があることが明らかです。

弁護人(田村) 

 WHOの報告について聞き漏らした点ですが、WHOの報告では「認識能力に障害を起こす」ということが報告されておりますが、これについてはどう思われますか。

証人 

 私はそう思いません。

 私が読んだ多くの報告では「認識能力」は鋭くなっているということ読みました。

弁護人(田村) 

 するとWHOの報告は間違いであるということですか。

証人 

 はい。

弁護人(田村) 

 もう一つ、大麻の耐性、つまり同じ効きめを表すためにはたくさんの大麻を吸わなければいけないという報告もあるようですが、これについてはどう思われますか。

証人 

 これはたいていの薬物についてよく言われることでありますが、マリワナでは、ほかの薬物ほどは起こらないと思います。

 そして、私が知っている多くの常用者達は、マリワナを10年も20年も30年も吸いながら、いつも同じ量を吸って、そして同じ効果を得ております。

弁護人(田村) 

 大麻の精神に対する作用で、「恐慌反応」「パニック反応」というものがあると聞いておりますが、それはどういう反応でしょうか。

証人 

 それは、それを飲んだ人が不安になるときの反応で怖くなったり、死ぬんじゃないかと思ったり気が違うんじゃないかと思い込んだりする、そういう反応のことです。

 この「パニック反応」は、マリワナだけではなくて、ほかのいろいろな場合にも起こり得ます。

弁護人(田村) 

 そういう「パニック反応」のようなものが起きるとすれば、大麻は人間にとって有害であると言えるんじゃないでしょうか。

証人 

 「パニック反応」というのは、中毒ではなくて、何か異常なと言うか、不馴れな事態が起こったときに起こる反応です。

 そして、マリワナにおける「パニック反応」といのは、マリワナを吸ったことのない人に起こりがちであります。

 しかも、不安な環境においてマリワナを試みたときに起こることが多いようです。

 そして、しばしばこの「パニック反応」が精神異常というふうに間違って呼ばれてきました。

 これは精神異常ではないのですから簡単に終えさせることができるのです。

 単に、「何も大したことはないんだよ」と言って、保障してやればそれですむことなんです。そして、これは予防することもできます。

 その予防策というのは「何も心配はなくて、快適な状態でなければマリワナを吸ってはいけない」といふうに教えておけば、これは救えるものです。

弁護人(田村) 

 「大丈夫だよ」と保障してやれば、なくなるということですがどれぐらいで消えていくものですか。

証人 

 私は15分から20分、ただ話しかけるだけで終えさせることができました。

 しかし、反対に、医者達がこの「パニック反応」を何週間も長引かせる例を見てきました。

 医者達は病院へ入れたり、ほかの治療に使う薬物を使ったりして、それを長引かせてしまったのです。

弁護人(田村) 

 大麻を吸引する場合、セットとセッティングというのが大事だということですね。

証人 

 はい。私はそういうセットとセッティングということのほうが薬物的影響よりもはるかに重要だと思います。

 薬物的影響というのはほとんどないわけですから、薬物的影響よりも、ずっとその態度とか環境の影響のほうが重要だということです。

 ですから、私達の実験室でやった実験の場合には、非常にたくさんマリワナを吸ったところで、特に期待することがなかったので、人々は何も感じなかったというようなことがあるわけです。

弁護人(田村) 

 私が今までお聞きしたこと以外に、大麻に精神的有害性というものが何かあるでしょうか。

証人 

 私は、身体的な悪影響について多くの報告を読みましたけれども、そういうのは、あまりきちんとしない研究によって書かれたものだったのです。

 そして私が見た唯一の身体的悪影響というのは、呼吸器に関するひりひりした感じであります。

 そして、私はマリワナというのは、ほかの薬物よりも非常に安全だと思います。

 アルコールとかタバコとかコーヒーに比べてはるかに身体的な悪影響というのは少ないのです。

弁護人(丸井)

 今、アルコールニコチンとの比較をされましたけれども、より安全だという意味は、どういう意味でしょうか。

証人 

 アルコールは我々の知っている薬物の中では最も強く、最も害の多いものであります。

 それは肉体的依存を引き起こし、それを直すことはとてもむずかしいです。

 特に、肝臓に対して非常に毒性があり頭に対しても良くありません。

 世界各地の病人の中でアルコールと直接的に関係がある人のパーセンテージというのは非常に高いのです。

 そして、アルコールをとり過ぎる、ということの直接的な影響も非常に危険なものがあります。

 アルコールは明らかに暴力とか犯罪と直接的に関係があります。

 世界各地の犯罪の中で,多くの場合はアルコールの影響下に行われたものであります。 しかし、それはアルコールをうまく、しかも適切に使うことができないということではありません。

 日本人は、私の観察によればアルコールの使い方は、アメリカ人よりうまいと思います。

 しかし、アルコールに潜在する危険性というのは、マリワナよりも非常に高いものです。

 タバコについて言えば、タバコの依存性というのは薬物の中でも一番高くて、治すことのできないものです。

 そして、タバコを吸いすぎた場合の身体的な障害というものはよく知られています。

 しかしマリワナを何年間も常用し続けても、タバコと同じような依存性というものは現れてきません。

 そして、マリワナはニコチンよりもずっと弱い薬物です。

弁護人(丸井) 

 大麻が有害であるという説の中に「スッテッピング・ストーン理論(踏み石理論)」というものがありますが、これの内容と、これが正しいのかどうかということについて証言してください。

証人 

 これはマリワナについての古い神話で、何回も繰り返されてきた説だと思います。

 この説はマリワナを使っていると、それよりももっと危険な薬物へ行く踏み石になるのではないか、特にヘロインに行かせるのではないかという考えです。

 確かにアメリカ合衆国で、ヘロイン常用者に聞きますと、その前にはマリワナを吸っていたという人はいます。

 しかし、彼らはそれ以外にも若いときにいろいろなことをやっています。

 多くのヘロイン常用者達は、12歳になる前からタバコを吸っていたりします。

 そして、みんなヘロインを始める前に、アルコールを飲んでいます。

 それに反して、マリワナ常用者の大部分はヘロインに対して何の興味も示しません。

 ですから、私はこれは嘘の理論の例だと思います。

弁護人(丸井) 

 次に「催奇形性」があるというような意見もあるようですが、これについてはどうでしょうか。

証人 

 私はそれを証明する証拠はないと思います。

 しかし、それに反して、タバコを吸う女性の場合には、吸わない女性よりも、統計的に奇形児の発生が見られます。

 そして、今度、アルコールを飲む女性の場合もより多くの異常児が発生するということがわかってきました。

弁護人(丸井) 

 大麻を吸うと、人を攻撃的にさせ、暴力犯罪を引き起こすという意見もありますが、この点についてはどうでしょうか。

証人 

 そのことについて、確かにそう言えるというのはアルコールであります。それに反して、マリワナは人々を静かにし攻撃的でなくします。

弁護人(丸井) 

 大麻を研究している日本の学者で、九州大学薬学部の植木教授ー彼はマリワナを栽培したり、ラットやマウスにマリワナを投与する動物実験をする人ですが、その人の論文を見ると、マリワナを吸った効果ですが、これは人間に対する効果ですから、多分彼の直接の経験というよりは、文献的知識かと思いますが「計算させても作業が遅く、間違いが多くなる。何事にも根気が続かず途中で仕事を投げ出してしまい、飽きっぽくだらしない怠け者みたいになる」というふうに言っているのですが、この点についてはどうでしょうか。

証人 

 私は彼の論文を読んでいないのですが、彼のやったことがねずみにマリワナを与えることだとしたら、人間に対するそういう結論というのはどこから来たのでしょう。

弁護人(丸井) 

 彼は、更に「大麻は仕事に対する集中力も根気もなくさせ、怠惰な官能追求的な生活に導く傾向のあることは確かである」というふうにも言っておりますが、この点についてはどうでしょうか。

証人 

 確かに怠け者でマリワナをすう人をたくさん見ました。

 しかし、それは怠け者がするのにちょうどいい、手ごろだったから吸っていたのでしょう。

 そして、非常に積極的で生産的な人々で、しかもマリワナをたくさん吸う人も私はたくさん見てきました。

 ですから、これはまた何が原因でどうなるかということの問題であります。

弁護人(丸井) 

 すると、証人の経験によれば、マリワナが原因で「仕事に対する集中力も根気もなくなる」とか「怠惰な官能追求的な生活になる」と言うことは言えないということでしょうか。

証人 

 私はそれがマリワナの影響だとは思いません。

弁護人(丸井)

 それから、植木教授は、動物実験をした結果ラットを一匹ずつ分けて大麻を投与した場合に、ラットが狂暴になって、例えばマウスをそのゲージに入れると、マウスをかみ殺してしまう、というような実験結果があったので人間には適用はできないにしても「大麻は飲む人の条件次第では、その後長く残るような恐ろしい脳の働きの異常を起こすかもしれないということを思わせる」というふうに言っているのですが、その点についてはどうでしょうか。

証人 

 それは、もしかしたら、ねずみをコントロールする方法としてはいいかもしれませんが、人間に応用できるとは私は思いません。

 そういう結論をその実験から引き出すことはできないと思います。

弁護人(丸井) 

 それでは、マリワナによって脳に何か障害が残るというような科学的なデータはあるのでしょうか。

証人 

 イギリスやアメリカでも、少し、マリワナ使用によってある種の脳の障害が起こったという報告はあります。

 しかし、これらの報告はマリワナ以外の要素がそこに入っていたんじゃないかという可能性を配慮する努力をしていません。

 例えば、過去に何か傷を受けたことがあるかというようなことに対して配慮していないのです。

 そして、例えばジャマイカのように非常に多くの人がマリワナを吸っているというところでの統計として、脳障害が起こっているということをいっている者はありません。

弁護人(丸井) 

 大麻を日常的に使っている社会というかグループで、そういう脳障害が起こるとか暴力犯罪が起こるというようなことが見られますか。

証人 

 いいえ。

弁護人(丸井) 

 例えば大麻を日常的に吸っているような地域なんかはどこがあるのでしょうか。

証人 

 アメリカでは方々にありまして、毎日吸っています。

 インドとかアフリカでは日常のことであります。メキシコ、コロムビア西インド諸島その他世界各地で・・・。

弁護人(丸井) 

 最新の資料では、今世界で人口的に言って、毎日日常的にマリワナを吸っている人口というのは、どのぐらいでしょうか。

証人 

 日常的使用の数字については知りませんが、合衆国では人口の3分の1の人はマリワナを試みたことがあります。

 それから1000~1500万の人は日常的に使っているということです。

弁護人(丸井) 

 先程、インドとかほかの国の例が出ましたけれども、それはどれぐらい前から使っているのですか。

証人 

 一番古い使用は有史以前にさかのぼります。

弁護人(丸井)

 インドの場合は有史以前からずっと吸っているということでしょうか。

証人 

 はい。そして大抵の場合、こういう日常使っている人たちは社会的階層からいうと低いほうであります。

 それで、しばしばこういった下層階級の人たちに対する偏見があります。薬物を使うということは下層階級のすることだというふうに思われています。

弁護人(丸井) 

 アメリカで大麻吸引人口が増えた社会的背景というものは・・・。

証人 

 1800年代にはマリワナはアメリカでは薬として使われておりました。しかし、レクリエーションの薬としてではありません。

 第一次大戦のあとで、ドラッグとしてのマリワナは南部の黒人達、特にミュージシャン達によって始められました。

 それからメキシコ人の労働者達が始めました。そして、これらの人たちがアメリカの各地方へマリワナをもって行きました。

 そして、だんだん他の人達も吸うようになりました。

 そして、長いことマリワナはアメリカの主流派じゃない少数派というか、白人の中では芸術家とか音楽家のもので、銀行家とか大統領とか裁判官のものではありませんでした。

 しかし、1960年代になるとベトナム戦争の反対運動と関連して、更にヒッピーの出現と関連して、マリワナは白人の中流階級の子弟達によっても吸われるようになりました。

 そして今、こういった人たちは、すでにきちんとした職業についている人たちでありまして、社会のちゃんとした位置についている人達になっています。

 ですから、今日、マリワナはアメリカの各階層において、経済的にも収入の多少を問わず、いろいろな人々の使用するところになっています。

 ですからマリワナ使用者を含まないような社会階層あるいは職業の人々を見つけることは非常にむずかしくなっています。

弁護人(丸井) 

 アメリカの今の法的規制についてですが、現状を簡単に言ってください。

証人 

 アラスカではマリワナは合法で、それを栽培してもいいのです。

 自分が使うためだったらそれを栽培しても所持してもかまいません、マリワナ常用者の裁判の結果、そういうことになりました。

 そして、あと10の州では、マリワナ所持あるいはマリワナ使用についての罰則が軽くされました。

 これらの州の人口を合わせれば、アメリカ合衆国の3分の一よりも多い人口になるはずです。

 そして、一般的に言えばこういったマリワナ関係の法律が改正されたということは、普通の人々にとっても非常に結果がよかった、ということが言えます。

 特に裁判所とか警察関係の人々にとってよかったのです。

 ということはもっと大切なことに注意を集中することができるようになったからです。

 これらの10の州では、アラスカのように合法的ではありませんけれども、マリワナについての罰というものは、交通違反程度のものになっています。

 そして多くの州もそれにならってマリワナについての法を改正することを考えております。

 カリフォルニアではマリワナを自分の個人的使用のためにならば栽培してもいいということを許す法律を出そうという動きがあります。

 一人が10本までは栽培してもよい、けれども売ってはいけないというようなことが考えられております。しかし連邦レベルでは変わりはないようです。

 しかし、ワシントンでアメリカの議会に対して、同じような罰則を軽くするような法律が出される動きがあります。

 そしてカーター大統領はこれらの法律改正に対して支持の姿勢を示しています。

弁護人(丸井) 

 アラスカの例で裁判の結果と、いわれましたが、それを簡単に説明してください。

証人 

 弁護士だった人がマリワナ所持のために逮捕されました。

 彼はアメリ憲法にもとづいて、これはプライバシーの侵害だから、訴訟を取り下げるべきだというふうに言いました。

 更に、もし州政府がマリワナが社会に対して非常に有害であるということを示すことができなければ、これは取り下げるべきだと言いました。

 そして、州政府はマリワナが危険だということを裁判所に対して証拠立てることができなかったのです。

 それで、その訴訟は却下されました。

 そして、この判決はアラスカの最高裁判所によって同じく支持されました。

弁護人(丸井) 

 それはいつのことでしょうか。

証人 

 1975年の終わりごろです。

弁護人(丸井) 

 大麻を吸って、何か利益になる、いいことというのはあるのでしょうか。

 健康の面、精神的な面において・・・。

証人 

 はい。まず健康についてですが、マリワナは医学のほうでは非常に長いこと使われてきました。

 しかし、今世紀になってから使われなくなったのです。しかし、今また新しくマリワナについての関心が医学会で高まっています。

 というのは、それが安全だからです。普通の医療品と比較して安全なのです。

 いくつかの点で、現在の医療をしているものを満たすからです。

 ですから、4つの州では、特定の医療のためには、マリワナを使うことを許しました。 その一つは癌の患者が癌の薬で吐き気を催すのを治すために使うことです。

 マリワナはこの目的で非常に効果を発揮します。しかも、それは毒性がありません。

 第二には目の病気の緑内障、あるいはそこひに対してですが、この病気は目の中の眼圧が高まって、最後には視力を失うものですが、マリワナはその圧力を減らします。 

 第三にマリワナは喘息の治療に使われます。

 第四に、脳性麻痺、特に筋肉の脳性麻痺に対して使われます。

 脊髄に対する障害、あるいは生まれつきの脳性麻痺に対して使われています。

 そして、ここ数年のうちに他の病気の症状に対しても、マリワナが治療に有効であるということが発見されるでしょう。

 精神的なよい面について述べますと、それはずっとむずかしい問題です。

 それは一人一人によって非常に違うからむずかしいのです。 

 マリワナは、ある宗教においては長いこと使われたという伝統があります。

 特にアジアでは使われてきました。

 そして多くの人々がマリワナは精神的によい影響を与えたという人がいます。

 私が会った多くの人々の中で、マリワナを使ったために瞑想するようになったという人がたくさんいます。しかし、マリワナが精神的なよいことをもたらすというのも間違いだと思います。 

 それは、マリワナが脳障害を起こしたり、ヘロイン使用に走らせると言うのと同じく間違っています。

 マリワナは人々を精神的に助けるという可能性、潜在的力はあると思います。

 しかし、これはそれを使う人が適切に積極的に使うかどうか、ということにかかっています。

 確かに、マリワナをばかな目的で、しかも使い過ぎるということはありうることです。そしてそういうふうにするひとがたくさんいることも事実です。

弁護人(丸井) 

 今の最後の点ですが、「被暗示性が増大して、例えば暗殺団なんかにはもってこいだ」というような意見もあるんですけれども、これはマリワナの作用だというふうに言っていいのでしょうか。

証人 

 私はその説は価値がないと思います。

弁護人(丸井) 

 その理由を言ってください。

証人 

 これもまた、マリワナについての神話の一つで、何百年か前にアジアでそういうことから始まったという説があるんです。

 だけど、本当を言えば中近東で暗殺団を作った人達は、マリワナを飲んだというよりはアルコールを飲んだのです。

 マリワナは刺激剤ではないのですから、暴力行為を誘発することはないのです。

 マリワナは人々をより平和的にすると思います。

弁護人(丸井) 

 先程、精神的作用の中で「人格喪失」とか「離人感」と言われるものは、肯定的な意味があるというようなことを言われましたが、それはどういう意味ですか。

証人 

 仏教とかキリスト教を含む世界の宗教の中では、自己をなくした状態に達するのがいいことだ、目標だというふうに言われてきました。

弁護人(丸井) 

 「人格喪失」とか「離人感」というのは、自分がわからなくなってしまうとか、自分自身の判断能力がなくなるとか、そういう意味があるのですか。

証人 

 そうじゃないです。

弁護人(丸井) 

 するとマリワナの効果として「人格喪失」とか「離人感」というふうに訳されているもの、あるいは言われているものは、本当の人格がなくなってしまうという意味ではないとすれば、これは不正確な表現になるのでしょうか。

証人 

 それは肯定的に表現できるかもしれないものを否定的に表現したものです。

弁護人(丸井) 

 「人格喪失」という日本語からすれば、自己認識とか自分の判断能力を失っている状態というふうに理解できるのですけれども、そうじゃないわけですね。

証人 

 はい。私はそれは正確だとは思いません。

弁護人(丸井) 

 先程、宗教の一種の高い心理的状態というふうに言われたと思うのですが、すると、むしろ「人格喪失」ではなくて、より高度な人間の状態というか「悟り」の状態というふうに言ったほうが正確でしょうか。

証人 

 「悟り」といったらより積極的であります。

弁護人(丸井) 

 だから「悟り」とも言えるわけですか。

証人 

 仏教の特に「悟り」ということについて読んでみれば、それは一言で言えば、自己の喪失ということで言えると思います。

弁護人(丸井) 

 アメリカなどでは、スポーツ選手が競技にはいる前にマリワナを飲んで、非常に気分を落ち着かせると、すると、いい状態で自分の能力が発揮できる、というようなことを聞いたことがあるのですが、それは事実でしょうか。

証人 

 はい。先程も言いましたけれども、マリワナを使わない職業というものを見つけることは、今のアメリカではむずかしいのです。

 それで、何人かのスポーツマンに会いました。

 彼らはマリワナを使っていますが、マリワナを絶対使わなかったスポーツマンにも会ったことがあります。

 マリワナを使う人は、使ったら成績が上がると言います。

 ですから、これもまたマリワナを使う人次第だということ、それからその試合についてどれだけ馴れているかということと関係があると思います。

 ボストンでの経験で言えば、初めてマリワナを使ったスポーツ選手は勿論うまく試合ができませんでした。

 しかし、マリワナを常用して、しかもマリワナの影響下で練習をしていたような人は、マリワナを使ったら試合はもっとうまくいくでしょう。

弁護人(丸井) 

 日本では大麻取締法があって、大麻を持っていたり、人にやったりすれば、5年以下の懲役刑というふうになっていますが、この刑事罰でマリワナを禁止すると、何か逆に悪い効果が出るというようなことが言えるのでしょうか。

 アメリカなどの経験から見て、どうでしょうか。

証人 

 第一に、そういう法律は実際には効力がないと思います。

弁護人(丸井) 

 それはどういう意味ですか。

証人 

 マリワナ関係の法律がアメリカでできてからマリワナ使用率は高まっています。

 その一つの理由は、法律があるということで、かえって反抗の形としてマリワナ使用というのが出てきたと言えます。

 二番目に、法があることでかえって個人や社会に悪影響があると思います。

 例えば、マリワナによって起こることで一番悪いことは、刑務所へ入らなければならないということです。しかも、昔から言われていたほどマリワナが危険じゃないということが最近、わかりつつありますので、人々はそのことをきっかけにして、法律とか社会の全体の構造をもう一回見直しつつあるわけです。

 ですから、現実を反映しないような法律は、結局は法律体系全般にとって、非常に破壊的な影響を持ってしまうことになります。

 そして、アメリカでこれらのマリワナを罰する法律の一番の悪影響は、これらのマリワナ裁判でもって、裁判所を非常に混雑させて、裁判所が動けなくなってしまった、ということであります。

 そして、その代わりに、本当に重要な犯罪に目が向かなくなってしまっているということです。

検察官

 マリワナを使うことによって「妄想」とか「不安」あるいは「記憶力の減退」「連想の混乱」等が起こりうるということですが、そういう意味で、マリワナはやはり有害であるということになるんじゃないですか。

証人 

 そういうことはありえます。

 しかし、現実世界で起こっている他のことのほうが、そういうことをもっとしばしば引き起こすし、もっとそういう実例があると思います。

 アルコールはごく当たり前に人を殺したり、精神異常にしたり、病気にしたりすることがあります。

 どんな薬でも、間違って使ったり、使用しすぎたりすれば、それは危険です。

 しかし、現実使われているほかの薬物に比べれば、マリワナはずっと安全だと私は信じます。

検察官 

 アメリカの法的規則について先程証言されたのですが、アラスカでは自らが使うためならば合法だということですが、アラスカでマリワナが合法でないとされる場合はどういう場合があるのでしょうか。

証人 

 個人の使用のために使ったり栽培したりすることはいいですが、しかし、法律では量について明記してあります。

 アラスカでは冬が非常に長いので、人々は非常にたくさんのマリワナを作ることができて、しかもそれは自分の使用のためだと言っております。

 しかし、売ることは非合法であります。

検察官 

 アラスカでは、人に販売することはいけない、ということになっているということですね。

証人 

 はい。

検察官 

 アラスカ以外の州では、マリワナの使用あるいは所持というものは罰則によって禁止されているということになるわけですね。

証人 

 州によって罰則が違います。

検察官

 罰則が違うというのは、罰則の程度というか、軽い処罰をするというところと、それより若干重い処罰をするところがあるという意味ですか。

証人 

 例えばカリフォルニアでは、30グラム以下の場合だったら罰金で、しかも罰金が行われない場合もあります。

 しかし、ネバダではいかなる量のマリワナでも、所持していたら終身懲役刑というところもあります。

弁護人(丸井)

 終身懲役刑になるということですが、アメリカで非常に長期の懲役刑を科するのは個人の幸福追求権とか、プライバシーの権利を侵害するから、憲法違反だという裁判例はあるのでしょうか。

証人 

 アラスカでは、そういうことでアラスカの最高裁判所でもその判例は支持されております。

弁護人(丸井) 

 それは憲法違反ということですか。

証人 

 はい。アラスカの最高裁判所では、これらのマリワナ取締法は憲法違反だということを言いました。

 その理由は、州政府はマリワナが非常に危険であるということを証明できなかったからです。

 ですから、これはプライバシーを侵すということで憲法違反であるというふうに考えたわけです。

弁護人(丸井) 

 具体的に憲法のどういう条項に違反したということですか。

証人 

 まず、憲法の前文で個人の生命と自由と幸福の追求を書いたところです。

 それでマリワナを吸っている人は、自分は幸福を追求しているんだ、というふうに言っております。

弁護人(丸井) 

 すると憲法で規定されている幸福追求権からし憲法違反だということになったわけですか。

証人 

 はい。幸福追求権に反しているということと、もう一つ人権宣言では家宅捜索について、それを禁止しているわけです。

 政府の側がはっきりした理由を示さずに個人の家を捜索することは憲法の一番最後の人権宣言のところで禁止されているわけです。

弁護人(丸井) 

 正当な理由がなく家に入って捜索などをした場合は、憲法違反だということになるわけですか。

証人 

 はい。政府は例えばマリワナは社会にとって危険であるという正当な理由があって家宅捜索をするんだといっていたわけです。

 ですからこの議論は本当にマリワナが危険であるかどうか、ということの議論でその真偽が出なければならないわけです。

 そして、アラスカではとにかく政府側はそれが非常に危険であるということを裁判所に対して証明できなかったわけです。

被告人 

 マリワナをやったら、幻覚、幻視が起こるということですが、アメリカでは、何を持って幻覚というふうに判断しているのですか。

証人 

 幻覚については、もう何百万語も書かれているので、私はちょっと・・・。

 しかし、言えることは、多くの宗教的指導者は幻を見たと、その幻はそういう指導者やその周りの人たちに非常に積極的な効果を与えました。

 しかし精神医学者たちは、これは精神異常だと言ったりしているわけです。

 ですから、これは見解の相違というよりほかありません。

弁護人(田村)

 マリワナを吸って、昼間からILLUSIONが見えるのですか。

証人 

 例えば、ここに座っていて、この部屋が大きく見えたなら、それはILLUSIONです。

 私が検事さんを見て、急に龍か何かになったら、それはHALLUCINATIONです。

弁護人(田村) 

 マリワナを飲むとILLUSIONというのはあるのですか。

証人 

 マリワナでILLUSIONが起こることはしばしばありますが、HALLUCINATIONのほうはありません。

 それでマリワナ常用者はILLUSIONを楽しんでいて、それは一種の知覚の遊びということで、おもしろがっています。

弁護人(丸井)

 ILLUSIONですが、例えば、弓で的を射るといった場合に、弓の達人は的が非常に大きく見えるから失敗しないと。

 しかし、非常に下手な人は小さく見えるから失敗するというような例で言えるのでしょうか。

証人 

 それは弓の名人にとってはよい、積極的に評価できるILLUSIONだといえます。

 ですから、それは自分の知覚をちょっと変えることが、何故よい結果をもたらすかということの例になると思います。

弁護人(丸井) 

 すると、例えば「直前の意識の曇り」ということが言われますが、それは現在に対する集中力が増すということの反映であると、集中力が増すから、物がよく見えるということになるわけですか。

証人 

 それは同じことであると言えるでしょう。

被告人

 アメリカではILLUSIONが悪いと言われていたのですか。

証人 

 それは、誰がそれを評価するかによって違っていました。

被告人

 アメリカではILLUSIONが有害であるとされていたのですか。

 アラスカなどでオープンにされているところは、法律的にどうなのですか。

証人

 法律はILLUSIONについては何も言っておりません。

 

(本証人の尋問及び供述は、通訳人片桐譲を介して行った)

昭和54年6月12日  京都地方裁判所  裁判所速記官  宮垣 昭雄