hirukawa-archive.hatenablog.jp 承前
うつ病の罹患率の地域的な差異を研究することは、うつ病の要因の遺伝・環境の両面からの解明に役立つ。
ただし、うつ病という診断数は患者数の良い指標にはならない。患者が精神科を受診し、うつ病と診断されるかどうかが、それぞれの地域の医療の状況や医師の臨床的な判断によって大きく変動するからである。それに比べると、残念ながら、自殺者数ははっきりした量的指標になる。ただし自殺の要因となる変数としては、うつ病が大きいとはいえ、身体的な病気や経済的な問題など他の変数の影響が大きい。
罹患者と健常者の両方に対して標準化されたうつ病評価尺度を実施するのは包括的な方法であるが、質問項目数が多いものは実施が困難である。質問数が少ない簡易尺度としては、iPhoneなどにも実装されているPHQ-9や、K6/K10などがある。また、一般的に用いられている心理尺度としては、主要五因子(Big5)のうちN(神経症傾向)因子が気分障害との相関が大きい。

都道府県別の主要五因子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jenvpsy/9/1/9_19/_pdf/-char/ja

日照時間と神経症的傾向
県民性の科学:心理学と脳科学からのエビデンス - Lab BRAINS
「北国は陰気、南国は陽気」といったイメージがあるが、気象学的要因については、温度よりも光の要因のほうが大きいようである。季節性うつ病に対する光療法の有効性とも整合性がある。

自殺率
https://todo-ran.com/t/kiji/18573

うつ病と自殺率の相関
図録▽自殺とうつとの相関(都道府県比較)
都道府県別の抑うつ・不安尺度の年次推移(2007~2022) honkawa2.sakura.ne.jp
三年おきに行われているK6尺度の統一的な調査によって、2000年代以来の経時的推移を見ることができる[*1]。抑うつ・不安傾向は東北・北陸などが高く、九州・沖縄などで低いという一般的な傾向があり、全国的には現象してきている。
社会経済的にみると、日本では本土が先に進んでいて、遅れた沖縄が後を追っているという状況があるが、メンタルヘルスからみると状況は逆で、沖縄ではもともと精神的に健康で、本土のほうが沖縄並みに上昇してきたという傾向も読み取れる。
1980年代には沖縄県の平均寿命は男女ともに全都道府県の首位であり、とくに女性の首位はしばらく続いた。これが、沖縄は健康長寿の県だというイメージを作った。
2000年代以降、沖縄県の「順位」は急落した。しかし、沖縄県民の寿命が短くなったわけではない。沖縄県の平均寿命は男女ともに伸びつつある[*2]。この二十年の間に、本土の各県の寿命が沖縄並みに追いついてきたというべきである。
健康度や幸福度の指数で、しばしば沖縄県が高い外れ値を示すのは統計的な事実である。日本本土でも沖縄県内でも「貧しい、遅れた沖縄」「米軍基地を押しつけられている不遇な沖縄」というイメージとは正反対に「沖縄県が特別に進んでいる」とか「沖縄は本土で失われた古き良き伝統を残している」という「言説」が流布されることがあるが、これは、裏返しの南国幻想なのだろうか。このことをより客観的に見るためには、外国との国際比較という文脈に位置づける必要がある。
平均寿命で言えば、日本、とくに女性は世界のトップレベルである。そういう国際比較の中に位置づけると、むしろ沖縄が世界トップレベルの長寿国である日本の状況を先取りしていたということができる。
また、幸福度というのは曖昧な指標だが、国際比較研究では、日本は世界的には中程度で、欧米先進国と比べると幸福度が低いことが知られている。
日本国内でも地域差があるが、この指標では沖縄県が首位であり、九州地区が高い傾向にある。
性別で比較した指標では、男性よりも女性のほうが幸福度が高い傾向にあり、意外なことに、父系・男尊女卑のイメージが強い九州・沖縄の女性の幸福度が高い。とくに沖縄は男女ともに外れ値といえるほど幸福度が高い。男性の幸福度は東京が最高である。その他の地域については、東北地方が幸福度が低いといった地域的な偏りはとくにみられない。
沖縄県が日本国内ではもっとも幸福なところだったとしても、日本全体としての幸福度は世界的には中ぐらいだといえる。
*1:K6はわずか6項目の簡易尺度だが、妥当性は高い。「日本の抑うつ分布も安定している」の分析は、K6による調査結果が示しているのは、うつ病傾向が調査年とも年齢ともほとんど関係なく一貫していることを示しているが、同時にうつ病傾向が微減ではあっても単調減少してきたことも示している。それだけ安定した調査であるのにもかかわらず、都道府県別で差が現れることは非常に興味深い。
*2:https://wedge.ismedia.jp/articles/-/38276?page=3&layout=b


