蛭川研究室 断片的覚書

私的なメモです。学術的なコンテンツは資料集に移動させます。

脂質代謝と脳

高脂血症

四十歳ぐらいから、中性脂肪コレステロールの値が正常値を上回るようになった。日ごろの不摂生と、歳のせいだろうかと軽く考えていたが、高脂血症という病気らしい。


2017年12月24日 晴和病院 世間ではご馳走を食べる日らしいが、病院では質素なお粥 

入院中は脂質制限食だったが、退院するとまた過食生活に戻ってしまった。二月からの休職を機に、糖質と脂質の制限を再開。

体組成計

ここ数年、オムロンの体重計を使ってきた。買ったまま、ほとんど放置されていた、というほうが正しい。具合が悪いときには、体重計の上に乗るのさえ面倒になってしまう。

USB経由でパソコンにデータを転送するWellness Linkというサービスを使っていた。2018年3月13日で打ち切られるということは、一年ぐらい前から通告されていたのだが、まるで夢のように時が過ぎ、気がついたときには、数日前にサービスが打ち切られていた。

けっきょく、iPhoneのヘルスケアと連動する新機種を買ってしまう。無駄な買い物かとも思いつつ、健康回復のため、モチベーションをアップさせるための、いわば方便というわけである。

OMRON connect

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  • OMRON HEALTHCARE Co., Ltd.
  • ヘルスケア/フィットネス
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OMRON connectというアプリが、データを可視化する。


2018年4月11日の時点で、体脂肪率は23.3%あった

身長172cmに対して体重64.6kg、BMIが22.1であれば標準体重であり、問題がないのかというと、そうではない。えてして不摂生をしている人間には、隠れ肥満が多い。脂肪が多く筋肉が少ないので、見た目は中肉中背だったりする。だから、体組成計のメーカーは、独自の方法で、体脂肪率や骨格筋率を算出してくれる。両足に電圧をかけて抵抗を計るものが多い。

3年ほど前、最悪だったころには体重が79kg、体脂肪率は28%あった。過去十数年の血液検査の結果を発掘し、体重計のデータと照合してみた。中性脂肪のカットオフ値を150mg/㎗l以下とすると、体脂肪率が23%以下になればいい、と試算。別の体組成計メーカーであるTANITAによると、40〜50代日本人男性の体脂肪率の正常値は22%以下である[*1]



2018年9月22日現在の体脂肪率は21.8%

通常の減量とは違い、もともとが過食症だからか、食べ過ぎをやめただけで、たちまち体脂肪が減り、5月の血液検査では、脂肪関係の数値も正常の範囲まで戻った。高脂血症の薬、プラバスタチンの服薬も、8月に打ち切った。現在、体脂肪率は22%前後で推移している。


動脈硬化


uBioClip v70

uBio Clipという機器で、動脈硬化の度合が計れるというので、試してみたのが、去年だった。


uBio Clipを指先に取り付ける。カメラ目線で笑ってはいるが、顔はかなりむくんでいる。

近赤外光を使って、指先の動脈の血管が収縮するときの加速度をはかる。

パソコンの画面に表示された加速度脈波。灰色の線は二十歳代の標準値。


加齢による加速度脈波の変化[*2]

血管年齢は四十台前半という意外に低い値が出た。プラバスタチンによる治療が功を奏していたのだろうか。

脂質代謝と脳

DHAEPAサプリメントも服用するようになった。

ω3脂肪酸高脂血症に対して有効だといわれているが、中枢神経系に対する抗炎症作用から、うつ病認知症に対しても効果があるという議論がある[*3]

ふつう、うつ病では、眠れない、食欲も性欲も社会的欲求も、あらゆる欲求がなくなり、苦しむことになる。

私は、定型的なうつ病ではない。逆に、過眠と過食に悩まされてきた。一般にこういう症状は、秋に多く現れる。たくさんの栄養を貯えて冬眠に備える、そういう遺伝的なプログラムが人間にも備わっているのだ、という進化心理学的な仮説がある。

毎朝、光療法を続けているが、これは、脳に、いまは秋でも冬でもなく、春なのだ、夏なのだ、という信号を送り、冬眠プログラムを抑制するという意味もある。(ハミルトンうつ病尺度で高得点となる定型的なうつ病の患者でも、脂質異常と肥満の傾向があるという[*4]

精神疾患と脂質代謝にかんする一般向け概説としては、ホロビン『天才と分裂病の進化論』がある。邦題は意訳であって病跡学の本ではなく、人類が進化の過程で肉食へと食性を変えてきたことが、統合失調症双極性障害という精神疾患を生み出したという仮説が紹介されている。

「身体病」としての「精神病」

秋になると、どこかメランコリックになる、というと、いかにも詩的である。けれども、それを冬眠行動であると読み替えてみると、精神の活動を、自然選択を経て進化してきた有機物のシステムというダイナミズムの中で捉えなおすことができる。

古代のギリシアには、憂うつな気分は黒胆汁(メランコリア)が多く分泌されるために生じる、という身体観があった。(→「心身の象徴論」)「ヒステリー」は、子宮(ヒステリコス)が体内を動き回ることによって起こるとも考えられていた。抗NMDA受容体抗体脳炎という病気がある。卵巣に奇形腫ができると、統合失調症に似た症状が出る。腫瘍を切除すると、治癒することが多いという[*5]。精神の変調が内臓の変調によって説明されるという生物学的精神医学のパラダイムは、古代の象徴的身体論と奇妙な並行関係にある。


記述の自己評価 ★★★☆☆
2018/04/01 JST 作成
2019/03/06 JST 最終更新
蛭川立

*1:健康的に体重を減らすには|健康のつくりかた|タニタ

*2:血管年齢の波形の見方を分かりやすくまとめておこう

*3:DHA・EPA」『疑似科学とされるものの科学性評定サイト』(明治大学科学コミュニケーション研究所)に、研究の現状についてのレビューがある。この項の主たる著者は山本輝太郎(明治大学情報コミュニケーション研究科)

*4:功刀浩・古賀 賀恵・小川眞太郎 (2015).「うつ病患者における栄養学的異常」『日本生物学的精神医学会誌』26(1), 54-58.]によると、大うつ病患者ではHDLと中性脂肪が異常であり、LDLと総コレステロールでは健常群と有意差がなかったという。中性脂肪のカットオフ値は150mg/㎗

*5:卵巣で未受精卵が卵割を始め、神経系が分化してくると、NMDA受容体をブロックし腫瘍を排除しようとする免疫反応が起こる。これが脳のグルタミン酸作動性ニューロンの働きを阻害するらしい。(飯塚高浩 (2009).「抗NDMA受容体抗体脳炎の臨床と病態」『臨床神経学』49(11), 774-778.に概説あり)